アニメ&ゲーム会社の新たな拠点に/新潟市が第二拠点に選ばれる理由

自然災害への備え、働き方の多様化、エネルギー供給のリスク管理―こうした要素に対応するため、東京一極集中から複数拠点型の運営へ移行する企業が増えています。そんな中で、いま静かに注目度を高めている都市が新潟市です。アニメやゲームの制作会社に向けた手厚い支援制度や文化的な土壌、そして日本海側の戦略的立地を兼ね備え、「第二拠点」としての存在感を強めています。今回は、新潟市の取り組みとメリットを多角的に紹介しながら、新たな制作拠点の候補地としての魅力を探ります。

目次

「アニメ・マンガの街」としての取り組み/「にいがた2km」

新潟市はかねてよりマンガ文化やアニメ文化への愛着が強い街として知られています。高橋留美子さんや赤塚不二夫さんといった多くの著名マンガ家を輩出してきたこともあり、市としても「クリエイティブ産業の集積」に積極的。その歴史は古く、1998年からは「にいがたマンガ大賞」を開催しています。アマチュアによる創作活動も盛んで、新潟市内で開催される同人誌即売会「ガタケット」は、県内外から多くのマンガファンが訪れるビッグイベントです。

中でも象徴的な取り組みが、「推し活」の推進と、新潟市が行うまちづくりプロジェクト「にいがた2km(二キロ)」との連携。新潟駅から万代、古町エリアまでのおよそ2kmの範囲を「にいがた2km」と名付け、まちづくりをより市民に身近に感じてもらえる取り組みを行っています。「推し活」をテーマにした取り組みでは、ももいろクローバーZが新潟県新発田市で公演を行うのに合わせ、地元飲食店がオリジナルメニューやサービスを提供する「モノノフ歓迎プロジェクト」を行うなど、街をあげての盛り上げ施策を展開。県内外から講師を招いての「推し活勉強会」も積極的に実施しています。

新潟市マンガ・アニメ情報館では定期的に企画展を実施

さらに、「新潟市マンガ・アニメ情報館」や「新潟市マンガの家」といった、展覧会や制作体験講座などを展開するマンガ・アニメの専門施設の整備にも力を入れています。新潟市マンガ・アニメ情報館では最近まで『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』展を実施していましたが、実はTVアニメ「ハイキュー!!」の制作を手掛けるアニメーション制作会社「Production I.G」は、東京のほか新潟にもスタジオを構えています。このように、企画展では新潟にゆかりのある作品や作者の企画を優先的に実施しているのだとか。街全体から「アニメ文化を大切にする」という姿勢が表れ、コンテンツ企業にとって親しみやすい環境が整っていると言えそうです。

eスポーツへの取り組み

NESUホームページ▶

今年6月、全国で38番目となるeスポーツ連合「NESU(新潟県eスポーツ連合)」が発足。 事務局長を務める株式会社Riparia代表の室田雅貴さんは、「高校と連携するなどして、若い世代をアフタースクール的に巻き込むことで、eスポーツ界における新潟のポジションを高めていきたい」と語ります。NESUでは、2025年から2027年にかけての3カ年計画を制定。今年は、eスポーツへの取り組の認知を地域に広げることを目的として、市内にある「メディアシップ」などの施設でeスポーツの大会を実施し成果を上げてきました。

公立の学校にeスポーツを学べる環境が整ってくれば、さらに土壌が拡大する。市と連携させていただき、2027年までに仕組みを作り上げて後進を育てていきたい」と語る室田さん。新潟の人気スポットであるバスセンターがある「万代シテイ」のメタバース化を進めており、eスポーツでの活用も狙っているのだとか。今後は、人気ゲーム「APEX」などのeスポーツタイトルの世界大会の誘致や、企業チームの設立支援などを行い、eスポーツの事業化と自走できる仕組みづくりを進めていくといいます。

アニメ・ゲーム会社向けの手厚い補助制度

新潟市が企業進出の点で高い評価を得ている理由のひとつが、その手厚い補助制度です。特に、クリエイティブ産業を対象とした助成が充実しており、進出前の視察から事業開始、人材採用までを広く支援しています。

ひとつは「視察補助制度」。新たな拠点候補として現地を確認したい企業向けに、交通費・宿泊費などの補助が用意されています。複数名での訪問も可能で、現地でオフィス候補地の周辺施設や、街の雰囲気や人となりを知っておきたいという企業に利用されています

新潟市役所も推し活を応援

また、「事業所進出の補助」も充実。新潟市内に新たにオフィスを開設する場合、賃料補助や内装工事費の補助など、初期コストの負担軽減を狙った制度があります。特に、機材設置や編集環境構築の初期投資のかかるアニメスタジオやゲーム開発会社にとって、初期コストを抑えられるのは大きなメリットと言えるでしょう。

さらに、市内の専門学校や大学と連携し、クリエイティブ関連企業への就職を支援する「地元人材採用の補助」も整備されています。地元の学校で学んだ学生がそのまま地元で就職でき、企業にとっては長期的な人材育成にも活かせるといいます。

立地的なメリット―“第二拠点”として最適な理由

駅前のバスターミナルには市内の専門学校生が描いた作品が

新潟市の価値は、文化や補助制度だけではなく、地理的条件が「リスク分散拠点」として大きな優位性を持っている点にあるといいます。大規模地震が懸念される日本列島において、東日本と西日本の中央あたりに位置しながら、日本海側に面する新潟市は「東京と同時に大きく被災しにくい地点」として注目されています。自治体同士の相互応援協定も結ばれており、もしもの際の事業継続(BCP)を考える上で最適なのだとか。日本海側におけるエネルギー拠点としての役割も担っており、都市ガス供給やインフラ整備も安定しているため、災害に強いバックアップ拠点として、ゲームサーバーの管理部署や制作の一部を置く企業も増えているようです。

また、新潟駅は上越新幹線の終着駅で、東京から最速で89分。移動ストレスが小さく、東京本社との往来も容易のため、オンラインと必要時の移動とを使い分ける「二拠点ワーク」も実現できるのも、新潟市の立地的な強みと言えるでしょう。

優秀な地元人材を採用できる環境

新潟市の産学連携は全国的にも先進的。複数のアニメ専門学校やゲーム専門学校、情報系学科を持つ大学があり、市も企業との共同プログラムに積極的です。「新潟コンピュータ専門学校」では、アニメ制作・ゲーム開発に必要な技術教育を提供し、即戦力となる若いクリエイターが育っています。来春からは、駅前の新ビルに移転予定なのだとか。学生主導で地域住民が気軽に参加できるイベントも行っていく予定だといいます。

近くにはJAM(日本アニメマンガ専門学校)も

新潟市としても「地元の優秀な若者が市外・県外に流出してしまう」という課題意識が強く、その解決策としてクリエイティブ産業の企業誘致を強化している背景があります。アニメ・ゲーム業界に限らず、リスク分散・多拠点化・分業化は、企業にとって今や選択肢ではなく必須の戦略と言えるでしょう。その中で、新潟市は文化、制度、立地、そして人材を揃えた「第二拠点として最も現実的な街」のひとつとなっています。新潟市の支援制度を活用しながら、新たな拠点としての一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。

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